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(現在は英語のみですが、日本語版の翻訳を制作中です。)
真実の物語
真実の物語第一章 カメレオンが鏡のコートを着ている理由
色はとても大切なものです。色は、食べ物が熟れているかまだなのかを示してくれます。断言はできないにしても、食べられるものかどうかを教えることができます。それに、色は私たちが遭遇する動物が危険であることを警告もしてくれます。例えば、黄色い蜂ですが、彼らは人と接するスキルが低く、私たちを刺すことで「 黄色は危ないよ」と教えてくれているのです。私たちにとってどんなに色が重要であるかは、さほど驚くことでもありません。では、色が外見でその特性を定義するものであれば、なぜカメレオンは自身の色を持っていないのか、皆さんはきっと不思議に思うことでしょう。なぜ、そしてどのようにして、カメレオンは色を変え、周りの色と自身の色を調和 するのでしょうか。色がなかった時代のことをありありと思い出すことができる人はそういないはずですので、これまた驚くことではないのですが、これまで皆さんが、このような洞察力に富んだ疑問を投げかけても、それを投げ返せるような答えはもたらされませんでした。ですので、どのようにして全てがこうなったのか、皆さんに本当のところ、その真実をお話ししましょう。
さて、この世に色がつけられ、すべての生命が始まり、太陽と月が正しく時を刻むよう公平に空の天井は分断され、木々や草花がまばゆいほどの色の花を咲かせ、種を持つ果実は実り、すべてのものが歓びに満ち満ちていたとき、これが最初の動物が誕生したときでした。初期の動物たちは、生き生きと色付けされるまで、レインボーフィッシュにも色はなく、ヒョウにもその柄はありませんでした。この物語は、すべての動物が捏ねられ、着色やアイシング装飾されることなく、まるで美味しいスイーツが綺麗な色に焼きあがるようオーブンに入れられた、ある六日目の早朝に起こったものです。実は、ひとつだけ例外の動物がいたのです。この六日目の早朝、カメレオンは、綺麗な色に焼きあがるようオーブンで焼かれている間、赤と青と黄色のベリー類を長い巧みな舌ですくいあげ、口の中にしまいこんでいたので、オーブンから焼きあがって出てきたときには、見事な色の配列で塗られていたのでした。
ところが、カメレオンは他の動物がいる中を歩いても、ペンケースに入っているペンのように気づかれませんでした。不自然この上ないのに気づかれずむしろ自然な感じがしたのです。全ての動物は寛容で、お互い分かり合っていたので、カメレオンに優しく声をかけました。
「とても素敵なコートをお持ちですね。」と。カメレオンは自分自身の姿を見られないので、典型的なお愛想言葉をかけられたと思い、こう返しました。
「あなたは素晴らしいジャケットをお召しですね。」と。カメレオンはつまらない灰色のロバにそう言ったので、ロバに自身をなんとはなしに愚か者のようだと感じさせたのでした。
ある日、灰色がかった茶色や、全体が単調な色合いの動物たちが集まって、やるべきことを決めました。カメレオンに悪気があったわけではなかったので、誰もどうしてなのか腑に落ちませんでしたが、あえて質問する者もなく、舌をコレクションにしているネコにカメレオンの舌を与えるよりも、カメレオンに気づきを与えようということで一致団結したのです。そこで動物たちは、カメレオンを湖にピクニックへ行こうと誘いました。これはとても意味のあることでした。あらゆる種類の動物がピクニックの場にいたのです。実のところ、ピクニックのために集まったのではなかったのですが。
動物たちは、色鮮やかであることよりもはるかに聡明で、カメレオンが到着すると宝探しのようなゲームをやろうと提案しました。まだ見たことのない動物を最初に見つけた者が勝者です。カメレオンを除く全ての動物はこのゲームの目的を知って参加しました。それでも、そのゲームは大変楽しいと、カメレオンと一緒に走り回り、もって生まれた性質なので止めることができないマネシツグミ(モッキングバード)以外は人まねをしてからかう(モッキング)ことはせず、カメレオンと四方八方に飛び上がったり、飛び跳ねたり、走り回ってして楽しみました。
動物たちは全速力で回転したり、木々に登ったり、とても深い穴を掘ったりしましたが、湖だけには近寄るものはなく、皆、腰を下ろして待っていました。カメレオンはとても興奮して跳ね回りました。もしあまり夢中になって楽しんでいないものがいたとしても、カメレオンの喜んでいる姿を見るだけで十分成功した日であったと、動物たちは思いました。
そのうち、カメレオンが湖の岸辺(バンク)にスキップしながら転げ落ち、未だ見つかっていない動物について銀行(バンク)の窓口で確認できればいいなと思いました。しかし、カメレオンは水際で止まりました。カメレオンの左目でじっと前方を見つめ、右目をギョロギョロさせていると、水面に何か見慣れないものに気づいたのです。それは、まるで舌に山盛りに載せたベリーのような色鮮やかなものでした。もう一度確認しようと目を細めて焦点を合わせてみました。そこには、他の動物は灰色がかった茶色か、完全に単調な色合いの柄であるにも関わらず、文句なしに見事な泳ぎをする、信じられないほど色鮮やかな動物がいました。カメレオンは今までそのような動物を見たことがなかったので、もう一度見直しました。
「そこにいるのは誰ですか。」
カメレオンは首の後ろをつり上げ、口角を下げたまま、どんなに興味津々であるかを示しながら尋ねました。しかしながら、その動物は、全くもって同じように、ほぼ完璧な調子で、「そこにいるのは誰ですか。」と返してきたのです。カメレオンは後ろに跳び、再び身を乗り出し、口角は下げたまま、「そこにいるのは誰ですか。」と繰り返しました。カメレオンは、この動物がすべての動物の中で最も素晴らしい生き物であると思い、ぜひ見てみようと、不意に、あたかも何かに押されたかのように、水に飛び込みました。水の中に落ちるとバシャバシャと水をはね散らかして、自力で岸に上がりました。水を滴らせながら見上げると、二つの光景が目に映りました。一つは、他の全ての動物たちが探すのを止めて静かに並んで、こちらを見ているということ。もう一つは、今まで見たことがない動物が、自分と同じように配色されて、自分の目の前にいること。カメレオンがこれら二つの光景を見たとき、眉毛をつりあげて唇をすぼめたので、動物たちは跳び上がり歓声を上げました。しかし、一つの問題が解決されたところで、他の問題が起こったのです。なんと、カメレオンが恋に落ちたのです。
太陽がやってくると去っていき、月が空に来て行進するとき、カメレオンはまだ湖の岸辺の水際に座り、キョロキョロと水面を見つめていました。太陽が休憩から戻ったときにも、カメレオンはまだそこにいました。六日目が終わり、七日目も過ぎ去りました。レインボーフィッシュはもちろん、すべての動物にはそれぞれ適切な色がつけられ、ヒョウ柄は後ですが、模様もつけられたのに、カメレオンはまだ、そこにいたのでした。
やはり、カメレオンには何の落ち度もなかったのですが、大変心を奪われており、カメレオンの情熱は狂おしく熱く燃えているので、動物たちはほとぼりが冷めるのを待つより、何か支援をしようと考えました。考えられることはすべて考えた上で、動物たちは最終的な結論に達しました。もし、カメレオンが自分自身をいつも見ることができるのであれば、自分自身に恋をしているとはいえ、目を細めて水面を眺め続けることなく、少なくとも普通に生活を過ごせるであろうと。
動物たちは、セイウチの提案で、セイウチの牙を集めるだけ集めました。セイウチはつい最近、小さな牡蠣の友人たちを残念にも失ったことを遺憾に思い、深く深く黙想していましたが、それはまた別のお話でして、セイウチの牙は信じられないほど反射するのでした。動物たちは、集めたセイウチの牙の鏡でコートを作りました。
動物たちは「カメレオンさん」と声をかけ、こうお願いしました。
「ぜひ、このセイウチのコートをお召しになってほしいのです。これは特別にあなたのために誂(あつら)えたものです。」
ところがカメレオンは、自分自身に憑りつかれていたので、何も見ようとも聞こうともしませんでした。動物たちは「カメレオンさん」と改めて声をかけました。
「このセイウチのコートをお召しになってみてください。食べていようが動いていようがどんな場所でも自分の姿を見られるようになるでしょう。お召しになったほうがいいですよ。」
この言葉を聞いたカメレオンは喜びいさむやいなや、自分の姿をすべてに映してみたかったので、そのコートを背中にササッと羽織り、前をしっかりと閉めました。
不運にも、そのコートをサッと羽織って前を閉めた途端、カメレオンは忽然として姿を消したのです。鏡のコートは、周りのもの全てを映し出すものであって、カメレオンだけを映すものではないことを、その場にいた動物たちは一匹たりとも考えていなかったのです。ですから、誰も色鮮やかなカメレオンを見つけられなくなってしまいました。動物たちは、歌うようにカメレオンの名前を呼びました。
「カメレオンよカメレオン、カメレオンさん。湖のそばにいませんか。姿を現して皆のそばに来ませんか。」
けれども、何も起こりません。動物たちはセイウチのコート向かって、今度は韻を踏むように呼びかけました。
「鏡よ鏡、鏡さん。カメレオンの胸の周りにいませんか。コートを脱がせて私たちの友だちを返してくれませんか。」
しかし、何も起こりません。動物たちは右往左往して捜索しましたが、何しろ見えない生き物を探すほど困難なことはありません。おそらくミタ(見た)という名前のオスブタと関わるメスブタでいる以外は。
同じように、いいえ、さらに悪いことに、カメレオンはもはや自分自身のことさえ見ることができなくなってしまいました。カメレオンが木に登ったら、ただの木にしか見えません。カメレオンが岩の上にいたら、自分も岩に見えるのです。牙の鏡でできたセイウチのコートを脱ぎたいのに、コートすらも見ることができなかったのです。
「私は茶色のコートをまとったフェレットでしたか。」と、カメレオンは後悔したように嘆きました。
「それとも濃い灰色のマスタング馬か、他の色の馬ですか。少なくとも私の色合いは、すべての色の可能性があります。『見てください、相応しい色をつけている馬たちがいましたよ!』と、皆が言うように。しかし、 今は、私は薄い紗の織物をまとった、単なる愚かな雑種犬で、人は私のようなものをあらゆる者に変化する、変幻自在の特性を持ち、本物の自分自身や実態がない者とか、『見てください、セイウチのコートを着たカメレオンがいますよ。』と、言うのでしょう。私にはもう、自分の色(本当の自分)がないのですから。」